【医師解説】うつ病と不眠症の原因・対策・改善 <日本睡眠学会認定医 佐藤幹先生>

Interview 2017年04月16日(日)

【医師解説】うつ病と不眠症の原因・対策・改善 <日本睡眠学会認定医 佐藤幹先生>

ストレス、うつ病と不眠症の原因・対策・改善法

【2017年4月23日更新】

<ドクターズインタビュー>ストレス社会の現代では、不眠など睡眠に関する症状が他の精神的な症状の一部として現れていることも少なくありません。精神科領域の病気や睡眠障害を幅広く専門的に診断・治療している新橋スリープ・メンタルクリニック院長の佐藤幹先生に、ストレスとうつ病、不眠症の関係、特に職場のメンタルヘルスと不眠の問題についてお話をうかがいました。

【佐藤 幹(さとう みき)先生】
新橋スリープ・メンタルクリニック院長
東京慈恵会医科大学付属病院本院精神神経科外来非常勤勤務
睡眠障害を中心に精神科領域全般における診療を行なう。睡眠学を専門とし、過眠症(ナルコレプシー等)、不眠症、睡眠時無呼吸症候群、時差ぼけなどの研究を行う。特に不眠症に関しては認知行動療法を取り入れた治療法を研究。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医 日本睡眠学会認定医

不眠が「うつ病」のリスクとなる

ストレス性障害は、精神医学的には適応障害といいます。その症状のひとつに不眠があります。原因のストレスがなくなれば睡眠がよくなる方もいますが、不眠だけが残る方たちもいます。また、ストレスがなくなってうつ症状はよくなっても、不眠症状だけが残る方たちもいます。そういう方たちは再びうつ病になりやすいといわれています。つまり、不眠症がうつ病を再発させるリスクファクターになるということです。

ストレス性障害では、まずストレスの原因をはっきりさせる必要があります。ストレスの原因が明確な場合、例えば、上司との関係など職場の人間関係でうつ状態になっている方のケースは、配属を変えてもらうことが、症状を改善するためのひとつの選択肢になります。

症状がうつ病もしくは適応障害の診断基準を満たした上で、患者さん本人が仕事を休みたいと思っている場合は、自宅静養することをお勧めしています。うつ症状が軽度であれば、仕事をしばらく休むだけで症状が改善し、抗うつ剤や睡眠薬などの薬を使わずに済むことがよくあります。ところが、もし休まずにうつ状態のまま会社に行き続けると、結果的に抗うつ剤などの薬が必要になるケースが多くみられます。いったん抗うつ剤を使い始めると、ある程度継続して抗うつ剤を使って行く必要があります。

脳の機能が低下すると、主観的に頭が働かなくなって回転が悪くなったような感じがします。この症状をインヒビション(inhibition:抑制 制止症状)といいます。たとえばメールがすぐ返せなくなる、簡単な指示が理解できない、などといったことが起こります。また、仕事中だけではなく、家でTVを観ていても内容が頭に入ってこないといったこともそのひとつです。これらはうつ病の兆候でもあります。

「適応障害」と「うつ病」の違いは?

inhibition(抑制)は、かつては「適応障害」ではなく、内因性のいわゆる「うつ病」だと捉えられていました。しかし、現在は必ずしもそうではないと考えられています。ストレスが強くかかって頭が働かなくなり、うつが疑われるようなケースでも、実際に仕事を休んで一週間もすると改善する方がいらっしゃいます。その場合はうつ病ではないと考えられるのです。

臨床の現場では「適応障害」と「うつ病」の線引きは、難しいケースも少なくありません。例えば、24時間ずっと落ち込んでいるかどうか、ということは「うつ病」のひとつの目安になります。ほとんどのストレス性障害の場合は家に帰ればリラックスできるので、そのような場合はうつ病とは診断しません。しかし、ストレスが強すぎて家でもずっと仕事のことを考えて落ち込んでいるようであれば、適応障害も訴えによってうつ病に見えてしまいます。
適応障害とうつ病が連続した病態なのか、二つの疾患を区別すべきなのか、現在の診断基準だけを元に考えると明確な線引きが困難になります。治療経過の中で、時間をかけて複合的に診断をつけてゆくことが必要です。

「適応障害」は誰でもなりうるものです。たとえば恋人に振られるなど、今の状況に適応できず気持ちがついていかなくて予想を超えて落ち込んでいる、というのが「適応障害」です。ただし、その中でもうつ病の遺伝負因(いでんふいん)がある方、つまり脳の脆弱性を持っている方はうつ病に移行していくこともあります。内因性の「うつ病」の場合には、それまで楽しい気分であってもいきなり脳にスイッチが入ったように落ち込み、状況が良くなっても落ち込んだままの状態が続きます。

クリニックに来られる方の多くは非常に多忙で時間がない方たちなので、いったん仕事を休むとそれだけでよくなる適応障害のことが多い傾向があります。しかし、何回も気分の落ち込みを繰り返している方、若い頃からうつ症状を認める方は、うつ病の可能性があります。また、少し判断が難しいケースとしては躁うつ病(双極性障害)のうつ状態である可能性もあります。そのため、うつ状態だけでなく躁状態があるかどうかの確認も必要です。こういったことをしっかりと見極めていかなくてはならないため、初診ではすぐに診断を決められないことも少なくありません。

「うつ病」と不眠は切っても切れない関係

「うつ病」と不眠は切っても切れない関係

脳にストレスがかかると生理的には覚醒度が上がるため、多くの例では不眠がつきまとうことになります。しかし、最近はうつ病で過眠を訴えて来る方もいらっしゃいます。精神的なストレスが、様々な形で睡眠の異常として表現されるのです。

精神的な疾患がある場合には、睡眠だけを取り出してよくするということはできません。脳の状態全体をよくしていき、日中からのストレスを取り除くことによってようやく夜眠れるようになります。あるいは夜の睡眠をよくすることによって日中のストレスを少なくしていくことにもつながります。睡眠薬を上手に使い、夜にゆっくり休むことができると、日中の抑うつ気分も少なくなります。そのため、うつ状態の時には、睡眠薬は積極的に使うことが推奨されています。

不眠とうつ病の関係についてはさまざまな方向から研究されています。たとえば不眠があるとうつ病がどれくらい再発するか、その逆にうつ病がよくなって不眠が残っていない人はどれくらいうつ病が再発していないか、また不眠が最初にあってうつ病になる人がどのくらいいるのか、といったことについて検討されています。今のところまだ結論は出ていませんが、どうやら不眠とうつ病は互いに移行するものだと考えられています。つまり、不眠があってもうつ病になるし、うつ病があっても不眠になりやすいということです。

ビジネスマンの不眠には職場のサポートが大切

ビジネスマンの方も含め、不眠で悩んでいる方にとっては、周囲からのサポートがとても重要です。会社から仕事を休んでもいいと言ってもらえたり、医療機関から診断書を出してもらえたりすると、患者さんはそれだけで楽になります。

当院では、患者さんは会社のほうから病院に行って来てくださいといわれることも多く、ご本人がひとりで悩んで診断書をもらいに来るというようなケースはむしろ少ないです。最近では、職場のメンタルヘルスチェックをきっかけに受診をすすめられることもあるようで、紹介状にもメンタルヘルスチェックの結果について触れられていることがあります。

単なる不眠ではなく、自分で何かおかしいと気づくきっかけには次のようなものが挙げられます。

  • 仕事上のミスが増えている
  • 遅刻が増えてきた
  • 仕事中に寝てしまう
  • ぼんやりしている

しかし、自分で異変に気付かないうちに、症状が悪化していく方も少なくありません。若い方の場合は自分から不調を訴えて来ることが比較的多いのですが、年齢的に上の世代になるとなかなか自分からは言い出せず、むしろ周りから言われて病院に来ることが多くなります。

キャパシティのある会社ならば「仕事を休みなさい」と言えるかもしれませんが、ある程度無理をしても仕事をしてもらわなければならない状況の会社も多いので、雇用側も従業員側もどちらからも言いにくいところがあるようです。しかし、睡眠時間が短いとどうしてもうつ状態などになるリスクが高くなる印象があります。雇用する側でも従業員の睡眠時間が6時間未満にならないように配慮すべきです。睡眠時間が6時間を切り、5時間台の状態が一定期間続くと、ひと晩徹夜をしたときと同じ程度に仕事の効率が落ちてしまうといわれています。

毎日の勤務状況を改善することが難しくても、せめて週に2日ぐらいは7時間以上の睡眠が確保できるよう早く帰宅させるなどの工夫をすれば、うつ状態になるリスクを減らすことができるはずです。睡眠時間は1日に30分〜1時間程度長くするだけでもかなり違いますので、30分でもいいので早く帰って寝られるようにしてみてください。仕事上、帰宅時間が遅くなることが避けられない方は、フレックス・タイム制を利用するなどして出勤時間を遅くするのもひとつの方法でしょう。

睡眠衛生と現代のライフスタイル

睡眠衛生と現代のライフスタイル

不眠にはいろいろな理由があります。睡眠衛生が守られていない方に対しては、まず睡眠衛生を守ってもらうようにして、それでも眠れないという方が「不眠症」ということになります。仕事上、睡眠衛生を守ることが難しいという方も多くみられ、本質的な「不眠症」かどうかの判断は難しいところです。

睡眠衛生を守るといっても、本来はそれほど難しいことではなく、すでに仕事をリタイヤした方などであれば健康を主体にした生活が可能ですが、現役で働いているとなかなか難しいところがあります。

就寝1時間前ぐらいからTVやスマートフォンなどを見ないようにするのが睡眠にとっては理想的ですが、実際には就寝直前までパソコンでメールの返信をしていたり、TVでニュースをチェックしたりしている方が大勢いらっしゃいます。また、布団の中に携帯端末を持ち込んで見ていることも多いのですが、これもよくありません。

このようにひとつひとつみていくとなかなか守るのが難しいところもあり、こうした睡眠衛生は、もはや現代社会では現実的ではないのかもしれません。社会や生活の変化に合わせて、睡眠衛生指導の内容もカスタマイズする必要があると思います。医療者側が、一方的に守れと指示するだけでは治療効果が少ないと感じています。

不眠の背景にある長時間労働の影響

多くの方は帰宅してから寝るまでの時間が短いため、生理的に睡眠の方向にシフトダウンすることが難しくなっています。

たとえば、お風呂から上がって2時間ぐらい経たないと脳や内臓などの深部体温が下がらないため、その間は覚醒度が高く寝つきにくくなります。深部体温が下がれば眠りが深くなるので、入浴自体は眠りのためによいことなのですが、帰宅時間が遅いと食事や入浴を短時間で済ませなくてはなりません。また、仕事のことなどで神経が興奮している状態で床につくことも、不眠になりやすい要因のひとつです。帰宅時間が毎日遅くなるような生活では理想的な睡眠の確保が難しくなってきます。

夜遅く帰宅したとき、お風呂に入る?入らない?

夜遅く帰宅したとき、お風呂に入る?入らない?

夜遅くに帰宅して翌朝早く起きなければならないようなときには、寝る前にお風呂に入るよりも朝起きてからシャワーを浴びることをおすすめします。眠りに関しては、本来はバスタブに入って深部体温を上げないとあまり意味がありません。

もちろん、汗を流さないとさっぱりしないという意味での寝苦しさはあるかもしれませんが、それが気にならないのであれば、朝起きてからシャワーを浴びると覚醒度は上がります。睡眠には気分的なものも関係するので一概には言えませんが、バスタブに入って深部体温を上げ、睡眠の2時間以上前に出られるという条件がクリアできるときにはバスタブに入るようにすればよいでしょう。

また冷え性の方の場合は、体の末端が冷えていると体温が放出しにくくなり、深部体温が下がりにくいので、靴下を履いて寝ることをおすすめします。エアコンをつけたまま寝ることもよくないと思われがちですが、寒いと覚醒度が上がってしまうので就寝中はエアコンを使って構いません。

休日の睡眠不足解消にもコツがある

休日の前の日など、翌朝に起きる時間を気にしなければ眠れるという方は多いのですが、その場合にも注意しなければならない点があります。起きる時間が遅くなり午前10時〜11時ぐらいまでずれ込んでしまうと、週明けに時差ぼけのような状態となり月曜日の朝がつらくなってしまいます。また、午後3時以降に昼寝をするとその夜に眠りにくくなり、寝不足な状態から一週間が始まってしまうことになります。

ですから、休日でも遅くても9時ごろまでには起き、いったん外に出るなどして日光を浴びるとよいでしょう。その後、午前11時〜午後2時ぐらいの時間帯であれば夜の睡眠には影響しないので二度寝をしてもかまいません。しかし、11時〜お昼頃までずっと寝てしまうと翌日の午前中に眠気が残りやすくなります。

仕事中にどうしても眠いときは無理をせず仮眠をとる

寝不足による眠気は寝ること以外では解消できません。眠らないでいると睡眠圧(すいみんあつ)というものがどんどん高くなります。お腹の中でガスがたまって便を我慢できなくなることをイメージしてみて下さい。睡眠も同様に圧力が高まってくると、最終的には気がつかないうちに眠ってしまうようなことになります。特に、車の運転中に眠ってしまったりすると生命に関わります。

昼食後の眠気は、サーカディアンリズムや概日(がいじつ)リズムとも呼ばれる体内リズムのピークがお昼と夜中に2つあることが主な理由であると考えられます。もし食事によって眠くなるのであれば、朝食後や夕食後にも眠くなるはずです。よくいわれている血糖値の上下もある程度影響はあるにせよ、眠気の体内リズムのピークが二峰性(にほうせい)になっているということのほうが要素としては大きいでしょう。

仮眠の前にカフェインを摂るとよいとされていますが、それはカフェインを摂った後30分ほどするとその効果が立ち上がってくるからです。ですから、カフェインを摂った直後に昼寝をして、昼寝が終わった頃にカフェインが立ち上がってくるとちょうどよいのです。ただし、寝不足だとカフェインを摂ってもあまり効きはよくありませんし、摂りすぎは夜の睡眠を悪化させてしまうので注意が必要です。

仮眠をするときは、横になれなくてもイスに座ったまま目を閉じているだけでも効果があります。目や耳からの情報がなくなると睡眠に似た状態に入りやすくなります。どうしても眠気に耐えられないときは、トイレの個室などで5分ほど目を閉じるだけでも効果的でしょう。

忙しい日々においても、ちょっとした工夫でより良い睡眠を手に入れることが出来ます。ぜひ実践してみてください。

 

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