体内時計を司るメラトニンの歴史

Topics 2015年04月22日(水)

体内時計を司るメラトニンの歴史

講堂に並ぶ椅子

体内時計や睡眠を司るホルモンとして有名なメラトニンが、睡眠への効果が確かめられ世界中にその名を知られるようになったのは1993年末と比較的最近のことです。アメリカのマサチューセッツ工科大学の実験結果がきっかけでした。充分に休息をとった被験者の若者たちに0.1ミリグラムのメラトニンを服用させて昼寝をさせた結果、被験者たちは深い睡眠に入りました。

0.1ミリグラムといえば数粒の塩の結晶程度です。メラトニンはわずかな量で、睡眠を促すとのニュースはウォールストリートジャーナルという新聞で報道されました。その記事をきっかけに全米の新聞と雑誌が、こぞってメラトニンが睡眠を促すとの報道をしたのです。

キャビンアテンダントが時差ぼけ解消に服用したメラトニン

間もなくしてメラトニンは時差ぼけにも効果があるとの研究調査結果が、1994年、ある雑誌に掲載されました。5ページにわたるその記事は、キャビンアテンダントがメラトニンを服用して時差ぼけを解消していると伝えました。メラトニンが体内時計をリセットするため、到着先の地域の時刻に合わせた就寝ができ、起床にも苦労しないとの報道でした。ウォールストリートジャーナル紙にてメラトニンが報道されてから、わずか4ヶ月で、キャビンアテンダントたちや、パイロットたち、ときに頻繁に海外に出張する人たちはメラトニンを時差ぼけ解消のために服用していたのです。

1993年まで脚光を浴びることのなかったメラトニン

アメリカでの報道は、またたく間に世界中にメラトニンの名を広めました。こうして脚光を浴びることになったメラトニンですが、脳の松果体から分泌されるホルモンであるこのメラトニンは1993年まで、ほとんど研究の対象とされていませんでした。発見されたのは1917年でしたが、論文はほとんど注目されませんでした。論文によれば、牛の松果体をすりつぶして、水槽に入れるとオタマジャクシの身体が透けて心臓や腸までもが見えたというのです。

それきり研究も調査もされなかった論文に着目したのは、イェール大学のアーロン・ラナー博士でした。1954年、皮膚病の医師だったラナー博士は、皮膚を黒くするホルモンを既に発見しており、メラニン細胞刺激ホルモンと名付けていました。今日ではメラニン色素が皮膚を黒くすることは多くの人が知っています。ラナー博士は、皮膚の色が脱色されたように白くなる「白斑」という病気を治療しようと考えていました。

皮膚の白斑治療研究から始まって、メラトニンを研究

そして1917年のオタマジャクシの論文を見いだしました。「牛だけではなく、人間の松果体も皮膚を白くする物質を作っているのだろうか?」もしそうなら、その物質の生成を抑えることで白斑を治療できるかもしれない。ラナー博士は松果体の精製にとりかかります。牛の脳から取り出した豆粒ほどの松果体を手間暇かけてすりつぶし、脱脂して、遠心分離機にかけ、濃縮し、濾過し、溶剤と混ぜ合わせ、蒸発させ、エタノールと化合させました。

2500個の松果体からどうにかオタマジャクシの身体を透明にした物質が抽出精製されますが、それはわずか100ミリグラムでした。この100ミリグラムの精製物をさらに、分画しなければなりませんでした。分子レベルで、物質を区分けすることを分画と呼びます。そしてカエルの皮膚に付着させると白く変色する物質を分画することに成功しました。わずか0.0000984グラムでした。分子構造を確かめるには10ミリグラムは必要です。そこでラナー博士は、論理的に計算して分子構造を推察します。それはセロトニンから変化する物質ではないかと勘を働かせたのでした。それが今日のメラトニンでした。

メラトニンの白斑治療研究は失敗

ラナー博士はメラトニンを、白斑の患者に投与しました。しかし白斑は消えず、確認できたのは鎮静作用だけでした。4年の歳月をかけた白斑を治療できるかもしれない物質の研究は失敗だったとラナー博士は思ったのです。もしもラナー博士が皮膚科の医師ではなく、精神科の医師だったら、それも不眠症を治療したいと考えていた医師だったとしたら、世紀の発見に喜んだかもしれません。

しかし白斑がターゲットだった皮膚科のラナー博士は、そのホルモンに名前をつけるだけで、それ以上の研究は断念したのでした。1958年のことでした。メラニンという、色素を作る細胞の力を緩和するので「メラ」、そして鎮静作用を持つセロトニンから変化してできるホルモンなので「トニン」、メラ+トニンでメラトニンです。ラナー博士が発見した未知のホルモンであったメラトニンは、鎮静作用を持つことに着目したマサチューセッツ工科大学が1993年に実験をするまで、医学の歴史には埋没してしまっていたのです。それから35年の歳月が流れました。

1993年のメラトニンが睡眠を誘発するという発表から、世界中でメラトニンは研究され始めました。夜に暗さを感じると分泌されて睡眠できる状態に脳と身体をセットして、起床して光を浴びると、消失して目覚めを良くすることは世界中の医師が認めるところとなりました。医学は、ときには意外な発見から進歩するというメラトニンのお話です。

参考書籍
『奇跡のホルモンメラトニン』ラッセル・J・ライター&ジョー・ロビンソン 監修/服部淳彦/聖マリアンナ医科大学講師 講談社
『メラトニン研究の最新の進歩』三池輝久 東京大学教育学部教授 熊本大学医学部発達小児科教授 山寺博史 杏林大学医学部精神科助教授 監修 星和書店

【提供:武田薬品工業株式会社

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